2024年度各賞受賞者一覧

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学会賞

吸入粉末剤によるペプチド、遺伝子、核酸デリバリーシステムの開発
岡本 浩一(名城大学 薬学部 薬物動態制御学研究室)

岡本浩一博士は超臨界二酸化炭素晶析法や噴霧急速凍結乾燥法といった新規な粉末製造法を確立し、これをペプチドや遺伝子、核酸などの吸入粉末製剤化に関する先駆的な研究を行い、多くの成果を挙げてこられた。これらの成果は95編の学術論文、413件の学会発表、91件の講演を通じて公表され、薬剤学の発展に寄与されてきた。また、物理薬剤学だけでなく、生物薬剤学にも精通し、18編の教科書、39編の書籍、75編の総説並びに雑誌記事など、薬剤学の普及並びに後進の教育、指導など薬剤学の普及に貢献されてきた。日本薬剤学会においても理事をはじめ評議員・代議員、各種委員会の委員長を歴任されてきた。また、名古屋で開催された第38年会(2023年5月)の年会長を務められた。他学会の副会長や理事などの要職、大学内での要職も務められた。

功績賞

受賞なし

奨励賞

分子間相互作用に基づく非晶質複合体製剤に関する研究
内山 博雅(大阪医科薬科大学 薬学部)

内山博雅博士は、特定の分子種同士が形成する分子間相互作用を利用した共非晶質製剤化技術による難溶解性薬物の溶解性改善に関する研究を進めると共に、このとき形成する複合体のLogPを吸収に適したものとすることで難吸収性薬物の膜透過性が改善することを明らかにしてきた。これらの研究成果は学術論文60報(うち筆頭著者18件)、著書4編にまとめて公表するとともに、国内外での学会において招待講演や一般発表などでも積極的に発表してきた。また、研究に関連した特許を8件出願している。学会においても物性FGの執行部を始め、製剤技術伝承実習講習会の運営や薬剤学投稿論文審査委員会など積極的に貢献している。

生体環境を模倣する新規細胞培養技術の薬物動態・毒性研究への応用に関する研究
荒川 大(金沢大学 医薬保健研究域薬学系)

荒川大博士は、三次元培養や生体模倣デバイスなどの細胞培養技術を薬物動態・毒性評価に応用することで、医薬品の血中・組織・細胞中薬物濃度の高精度な予測を可能とする手法の確立に関する研究を進めてきた。これまでに新規な薬物動態調節機構の解明や胆汁成分の回収が可能なヒト初代培養肝細胞の培養手法の提案、透過試験による薬物の胆汁中排泄クリアランスの予測法の樹立など着実に成果をあげAMEDの研究代表も務めるなど精力的に研究活動を進めている。これらの研究成果は51報の研究論文(うち筆頭著者16報)と2報の総説にまとめられ、特許も1件出願している。同氏は、英語セミナー委員やGlobal Education Seminarの主催、年会でのシンポジウムオーガナイザーなど、本学会においても精力的に活躍している。

薬剤学を基盤とした薬物療法の個別化・最適化と臨床実装に関する研究
平 大樹(京都大学医学部附属病院 薬剤部)

平大樹博士は、吸入製剤の粒子設計や新規評価系の確立に関する研究に従事し、学位を取得した。学位取得後は、大学附属病院などでの臨床現場において、製剤学、薬剤学に基づいた幅広い視点から、薬物療法における個人差のメカニズム解明を始めとする個別化薬物療法の実践に関する研究に携わってきた。これらの研究成果については84報の学術論文として公表されている。また、同氏は、臨床での業務に加え、本学会においては、年会でのシンポジスト2件や一般発表、第38年会では組織委員や学術シンポジウムのオーガナイザーを務めるなど様々な活動を通じて貢献している。

タケル&アヤ・ヒグチ記念栄誉講演賞

Dr. Youngro Byun(Seoul National University)

Dr. Youngro Byun氏は、DDS 研究に長年にわたって従事し、ペプチドリンカーを用いて腫瘍組織特異的に抗がん剤を作用させる研究を精力的に進め、その成果を250報以上の学術論文(h-index:48)に公表するとともに、国際特許19件、国内特許34件を出願するなど、研究面を通じて薬剤学分野に多大なる貢献をされてきた。さらに得られた知見について,既に複数の実用化に成功しており,医療薬学的な貢献も多い。

タケル&アヤ・ヒグチ記念賞

—当期設定なし—

旭化成創剤開発技術賞

タケキャブ錠のライフサイクルマネジメント戦略~キャブピリン配合錠及びタケキャブOD錠の開発~
杉山 祐一、藤井 博之、佐藤 嘉信(武田薬品工業株式会社 ファーマシューティカル・サイエンス ドラッグプロダクトアンドデバイス・デベロップメント ジャパン)

タケキャブ錠は主薬としてボノプラザンフマル酸塩を含有する武田薬品が創成した新しいタイプのプロトンポンプ阻害剤であるが、同社はその製品価値最大化を図るべくアスピリンとの配合錠及びタケキャブOD錠の開発に着手した。その開発を達成するため、数々の処方設計及び製造法設計における工夫を駆使し、製品化に成功した。例えばOD錠においては両成分配合による安定性を確保するため二層錠での開発としたが、服用性を考慮して錠剤サイズを先発錠と同じにすべく外層の製法には噴霧乾燥法を採用するに至った。またOD錠の開発においてはボノプラザンフマル酸塩が保持する苦味抑制のため口腔内ではその溶出性を押さえ、一方胃に至れば一気に溶出する製剤技術も開発して主薬の生物学的同等性も確保した。様々なオリジナリティーの高い製剤技術を用いてボノプラザンフマル酸塩の製品価値を向上させ、患者さん及び医療現場のニーズに応えている。

旭化成創剤開発技術賞研究助成金授与

固形剤・注射剤製造プロセスのデジタル設計技術
杉山 弘和(東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻)

杉山弘和博士は医薬品の製造プロセスにおいてその単位操作を数理的モデルとして記述しプロセス全体をシミュレーションによって最適化する研究を展開することにより、固形剤及び注射剤製造プロセスのデジタル設計を可能にする新規な技術を開発してきた。その成果として固形剤製造においては混合・造粒・乾燥・打錠・コーティングから成るプロセスを対象に連続生産の経済的評価モデルを構築し、連続生産の長所・短所を的確に捉えたうえで、バッチ式生産との優劣性を判断できることを可能とした。また注射剤製造プロセスにおいては調製・充填・凍結乾燥・検査から成るプロセスを対象にシングルユースとマルチユースの選択を可能にする評価モデルを構築した。この手法は既に欧州メガファーマで採用され、コスト削減に貢献している。

旭化成創剤研究奨励賞

局所皮膚適用製剤に向けた高分子量ヒアルロン酸の角層導入技術の構築
藤井 美佳(株式会社資生堂 みらい開発研究所 シーズ開発センター)

ヒアルロン酸は皮膚の保湿に加えてケラチノサイトの分化等細胞の機能維持に重要な役割を担っている。一方皮膚中のヒアルロン酸量は加齢とともに低下するが。ヒアルロン酸の分子量が大きいためこれを外部から補充する製剤技術は未だ確立されていない。そこで藤井美佳博士は金属イオンの共存がヒアルロン酸の皮膚透過性を高めることをEx Vivoで見出し、特に塩化マグネシウムの効果が著しいことを明らかにした。また同氏は塩化マグネシウムの添加によりヒアルロン酸の分子半径が短縮されること、及び同添加でヒアルロン酸の角質層間隙移行が促進されること等も示している。さらにヒアルロン酸及び塩化マグネシウムを含有する製剤が臨床試験において刺激性等を認めないこと、また摘出皮膚角層シートを用いた検討では同製剤が乾燥により悪化する角質柔軟性及び角質透明度を顕著に改善することも明らかにした。ヒアルロン酸製剤の検討は非常に斬新であり、また臨床的にも有用性が期待される。

溶融造粒による新規薬物含有粒子製造技術(MALCORE®)の開発
吉原 尚輝(沢井製薬株式会社 研究開発本部 製剤研究部)

製剤技術の一つとして薬物をコーティングした球形微粒子に苦味マスク、腸溶性及び持続性機能を有する外層を付与する技術は長年実用化されている。薬物を効率良くコーティングして球形粒子を得る方手法としては水あるいは有機溶剤を用いる湿式造粒法が一般的であるが、製造に比較的時間を要しまたコストもかかる一方、溶媒に不安定な薬物には適用不可となる。このため溶媒を用いない乾式造粒法が種々考案されてきたが、良好な球形粒子を効率良く製造する実用化技術の完成にまでは至っていない。そこで吉原尚輝氏は多孔性シリカを核としてこれに薬物及びポリマー添加して溶融造粒する新規乾式造粒法を考案し、上記課題にチャレンジした。即ち、『多孔性シリカと薬物を加熱混合するとシリカより溶融成分が染み出し、シリカに薬物が吸着する。続いて高分子ポリマーを添加することによりさらに吸着力が増し、短時間で多量の薬物が吸着して高濃度の薬物(シリカに対し70%量)が積載される球形微粒子が完成する』という新規技術を検討した。その結果同氏らはGMP環境下でのパイロットスケールにおいて同法を用いた薬物含有球形微粒子の製造に成功しており、実用化を見据えるまでに至っている。考案した新規の乾式球形微粒子製造法は、製造時間の短縮、薬物積載量増加及びトータルでのコスト低減を実現し、さらに生産での実用化も期待される。

旭化成創剤研究奨励賞研究助成金授与

医薬品製造のための乾式造粒・コーティング技術の開発
近藤 啓太(名城大学薬学部製剤学研究室)

近年、製剤技術における機能性微粒子の応用は目覚ましいものがあるが、一方で溶媒を用いない乾式造粒法の確立、薬物の核粒への積載量増大、製造時間の短縮等によるコスト削減等の課題も多い。近藤啓太博士は一貫してこれら課題解決を目標とし、乾式造粒法による機能性微粒子の新規製造法開発に取り組んできた。その結果、水や有機溶媒を使用しない乾式メカノフュージョン法による薬物単味の球形結晶の製造法や高分子の乾式コーティング手法などの革新的な製剤技術を確立した。またコペンハーゲン大学との共同研究では乾式造粒技術による薬物非晶質化技術も構築し、国際的にも活動を展開している。一方、同氏が考案した技術は未だ実用化の段階には至っておらず、今後のさらなる研究が期待される。

永井記念国際女性科学者賞

石井伊都子(千葉大学医学部附属病院 薬剤部)

石井伊都子博士は、動脈硬化症発症及び進展におけるマクロファージと血管平滑筋細胞の役割に関する研究を通じて、細胞生物学の観点から発病のメカニズムの解明と治療ターゲットの解明を行ってきた。この中で遺伝子クローニングをはじめとする最先端の遺伝子工学技術を積極的に採用した取り組みを行われてきた。また、臨床にたずさわるようになってからも、患者の病態から得られる情報を元に疾病のメカニズム究明に注力し、薬剤学分野の研究に発展された。千葉大学医学部附属病院の教授となって以降は、医薬品別検査値データベースの開発ならびに、処方箋への臨床検査値の表記を進めるなど、個別化医療の実現に尽力されてきた。基礎研究から臨床まで幅広い研究はもとより、教育面、学会や各種公的機関の委員など社会的な貢献をしてきた。これらの活動については、原著論文137報、総説35報、著書14編などにまとめて報告している。以上のように、同氏は、基礎薬学を実際の臨床につなげ、着実な成果を挙げると共に、その成果に基づいた知見を社会貢献へと還元してきた。

優秀論文賞

Haruki Higashino, Corey Develin, Chie Higashino, Tyler Lim, Andrew Martin, Feng Zhou,Robert Strab, Rachana Patel, Siddhartha Bhoopathy, Ismael Hidalgo
J. Drug Deliv. Sci. Tech. 83, 104439 (2023)
In vitro digestion-diffusion model for predicting in vivo performance of lipid-based formulations

本研究論文は、消化液が存在する条件下での脂質製剤からの難溶性薬物の体内吸収を反映するin vitro系の確立検討を報告してたものであり、Lipid-Based Formulation(LBF)のin vivo吸収を予測できるようなin vitro溶出試験法を提案した興味深い論文である。この論文では、消化管内でLBFのエマルション滴から水溶液中に放出されるフリー薬物を模倣するため、従来は皮膚透過性の試験で使用しているFranz拡散セルと透析膜を組み合わせて、薬物濃度を定量する実験系を構築している。更に消化の影響を模倣するため、リパーゼを含む実験溶液を使用している。モデル薬物を用いて調製したLBFにおいて、本論文の溶出試験の結果はラットAUCと良好な相関が得られたという結果から、LBFのin vivo吸収を予測できる有用な試験法であると判断できた。

創剤特別賞

受賞なし

国際フェロー称号

Dr. Youngro Byun(Seoul National University)

「薬と健康の週間」懸賞論文

電子処方箋・オンライン服薬指導始まる:薬局の将来像―薬学生の立場から―

  • 第1席 伊東 龍一(東京薬科大学)
  • 第2席 夏井 優翔(徳島大学)
  • 第3席 上田 奈央(徳島大学)

製剤の達人称号

  • 猪尾 勝幸(帝國製薬(株))
  • 中園 修一(第一三共(株))